書評『ハッキングマーケティング(翔泳社)』アジャイルマーケティングの時代がやってきた

「アジャイル」の考え方をマーケティングにも取り入れるべきだと提唱しているのが、本書「ハッキング・マーケティング(著者:スコット・ブリンカー、翔泳社)」です。

高速リリース・テストを繰り返して成果を上げる「アジャイルマーケティング」

「アジャイルマーケティング」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。

「アジャイル」という言葉はシステム開発の世界では近年よく使われる言葉となりました。従来型の「方針策定・要件定義・設計・開発・テスト・リリース」という進め方で、長い時間をかけて行う一気に開発する進め方を「ウォーターフォール」型と呼びますが、短い期間(1週間から6週間程度)で開発・リリースを繰り返す進め方を「アジャイル」開発と呼びます。

こうした「アジャイル」の考え方をマーケティングにも取り入れるべきだと提唱しているのが、本書「ハッキング・マーケティング(著者:スコット・ブリンカー、翔泳社)」です。

Martech発起人であり、Marketing Technology Landscapeの取りまとめ役のスコット・ブリンカー氏

著者のスコット・ブリンカー氏は、当ブログでも何度も紹介しているChiefmartech.comで、「Marketing Technology Landscape」をとりまとめているマーケティングテクノロジーの第一人者。

マーケティングテクノロジーの最大のイベント「Martech」の発起人でもあり、IONインタラクティブというWebフォームやアンケートページを管理するマーケティングテクノロジー会社のCTOでもあります。

マーケティングテクノロジーランドスケープ2017年版公表 ベンダー数が5,000を超える

5月9日-11日にサンフランシスコで開催されているMartechに参加しています。Martechはまだ日本では・・

 

「アジャイルマーケティング」という言葉を最初に提唱したのは、マット・ブランバーグ氏が2006年にブログに書いたことが始まりだと言われているそうですが、10年のときを経て今、マーケティングの実行プロセスをアジャイルにすることの重要性を提唱しています。(本書の中では、2012年に我々は転換点を向かえたと説明されています。)

デジタル時代のマーケティングの進め方はソフトウェア開発に近い

本書は、デジタル化が急速に進むマーケティングの世界で、システム開発の現場で市民権を得つつある「アジャイル開発」の手法が有効であることを主張しています。

紙媒体やマス広告のように、1度リリースしたら容易には変更ができない顧客接点が、WebページやEメールなど成果を見ながらリアルタイムに変更ができる接点に変わりつつある世界。

「過去の経験則や長い時間をかけた議論」から「素早く作り・リリース、顧客の反応を見て改善」というプロセスにシフトすることが、マーケティングの成果を上げる重要な視点となると説きます。

たしかに、ほとんどの企業が1年サイクルの予算管理の下、年度末から期初に大きな計画を描き、その後長い時間をかけて実行していると思います。デジタルシフトが急速に進む中で、こうした進め方ではスピードが遅すぎるのかもしれません。

そんなに早くリリースして、質の悪いマーケティングにならないか?

もちろん、アジャイルマーケティングのやり方に対して必ずしも賛同者ばかりではないのが現実です。

早くリリースするような施策は質が低い。顧客に対して質の低いものを見せて良いのか?という批判は多くあるそうです。それに対して、時間=質という考え方を捨て、何が顧客の体験向上につながるのかを説明していきます。

また、スーパーボウルの最中突然の停電に際し、オレオが投稿した有名なツイート「暗闇でもダンクできる」の事例を引き合いにだし、説得力を持たせています。

その上で、ソフトウェア開発で使われる「RERO=Release Early Release Often」をマーケティングに置き換え、「MEMO = Market Early Market Often」を実践していこうと呼びかけます。

教条的ではなく実践的に(意見や議論より実践・テスト)

本書を通じて主張されるアジャイルマーケティングの進め方は、もちろんサイクルのスピードの速さが主題ですが、A/Bテストやデータの重要性も謳っています。

どちらが良いのか?は結局顧客に聞いてみるー こうしたことがEメールやWebサイトなどあらゆるデジタルチャネルで簡単にできるようになっている。そこから得られるメリットはマーケティングの成果としても有効だ、というストーリーは非常に説得力があると思います。

組織の問題:マーテックの法則とT型人材の重要性

最後に、本書では組織と人材について議論を行っています。

テクノロジーに詳しいマーケター、「マーケティングテクノロジスト」の価値が高まっていること、専門性を持ちつつ様々な領域を担える「フルスタックマーケター」の重要性を説明します。

また、大きな組織が直面する「マーテックの法則」という考え方は、マーケティングテクノロジーの採用に際して非常に参考になるものでした。マーテックの法則は、組織の変化率が時間軸とともに対数的になる一方で、マーケティングテクノロジーの変化は指数的であり、その差がますます広がっているということを意味します。

解決策として、「フォーカス」「オーバースペックの回避」「サンセッティング(古いものから捨てる)」という戦略オプションを示して本書の結びにつながります。

マーケティングサイクルの高速化に関心がある方は是非読んでみるべき一冊だと思います。

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