BCPというものをDXで捉えなおしてみる

新型コロナウィルスの流行により、日本を含む多くの国で非常事態が宣言され、世界中の企業が急激な働き方の変更を強いられています。つい3ヶ月ほど前までビジネスの変革や競争力の向上を目指していたDX(Digital Transformation)は、直面する困難への対応に鳴りを潜めてしまったように感じます。

このような非常事態のために、多くの企業がBCP(Business Continuity Plan: 事業継続計画)を策定しています。非常事態宣言により外出が制限され、出社や営業活動が困難となり、人が集まる工場や企業を運営するのが困難な状況は、まさにBCPが発動されて事業継続が実行に移される場面です。

しかしBCPには限界があり、それを補う実行機能としてDXが新たな位置づけを得つつあります。
多くの方々が困難に取り組んでいる今、BCPとしてのDXの役割を考え、今回の災害に企業基盤業務のデジタル化によって対応している事例を紹介したいと思います。
 

 
BCPの限界


災害時の実行に直面してみると、BCPの事業継続には限界があります。

BCPは災害を受けたときの復旧のために策定されていますが、あらゆる災害のケースを想定することは不可能です。災害時には想定とは異なる状況に対応しなければならず、BCPの継続対策だけでは対応できない事態が生じます。

また、BPCは災害発生時に効力を発揮しますが、平時では直接効果を発揮しません。策定に相応の時間とコストがかかることもあり、会社の規模が小さくなるほどBCPを策定できる割合は小さくなります。それ故、BCPの策定自体が制限されたものとなるのです。

実際のところ、新コロナウィルスの流行という自体に直面して企業が急速に強いられているのは、リモートワークへの転換や、開店できない店舗の代替販路の確保、顧客訪問しない営業や、事務処理の代替手段への転換といった、日常の業務の変革です。 

日常の業務をより効率的に、効果的に、継続可能な柔軟性を持った業務に変革することは、これまで業務のデジタル化として、多くの企業がDXで目指した姿でもあります。皮肉にも、新型コロナウィルスという災厄によって、世界中が凄まじい勢いでDXを強いられていると言えるのです。

 
企業を存続させるDX


DXは広い概念ですが、経済産業省のDX推進ガイドラインでは以下のように定義されています。

企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。

 
ここでの「競争上の優位性の確立」は、3ヶ月ほど前までは主にイノベーションや生産性の向上、市場におけるビジネスの付加価値の向上、AIやIoTの活用といったどちらかといえば戦略的な取り組みが志向されていたと思います。

しかし、新型コロナウィルスの流行で状況は一変しました。「データとデジタル技術の活用による、顧客や社会のニーズに基づいた製品やサービス、ビジネスモデルの変革」であるDXは、企業を存続させるために不可欠な変革として新たな位置づけを獲得しています。

企業活動基盤のデジタル化の例

先進的なイメージのDXとは異なり、企業を存続させるために必要なDXは、企業の活動基盤のデジタル化です。このため、企業が属する業界や所在する場所、取引先といった企業環境や、設立からの歴史や人材の考え方など、多くの要因の影響を受ける個別性の高い取り組みとなります。

企業活動基盤のデジタル化を進めていたことによって、BCPの発動をせずに業務を継続している事例を見てみます。この企業では、非常事態宣言の発令によってオフィスへの出社を制限されたにも関わらず、従来とあまり変わらない安定した業務が継続されています。

ここでは特に3つのデジタル化が効果を発揮した分野の、ある事例を取り上げてみましょう。

  1. コミュニケーション
    1. 社内コミュニケーションの大部分はSlackに集約することができます。業務によって多数のチャンネルが作成され、1人が複数のチャンネルに所属する形でコミュニケーションがされています。Slackは、メールによる問い合わせや業務の進捗等他のシステムからの通知の他に、出退勤連絡や経費申請、契約書の承認申請といった業務手続もSlack上で行われています。
    2. 社内外の会議ではZoomが活用されています。元々リモートワークが浸透しており、Zoomによるオンラインの会議が盛んに行われていたため、新型コロナウィルスによる全社リモートワーク体制に移行しても会議についてはあまり影響を感じません。
    3. 電話については全社でIP電話が導入されており、外部からの電話にスマートフォンのIP電話アプリで対応することができるようになっています。最近は外部からの電話の内容がSlackに通知されるようになったため、離席やリモートで直接電話に出られなくても対応できるようになりました。
  2. 業務手続
    1. 契約書の作成と承認、電子押印もSlack上で行われ、社内のプロセスはデジタルで完結しています。書類の提出先によって、最終的に印刷製本して送付していますが、提出先がご了承頂ける場合には契約書の送付もデジタルで行っています。
    2. 経費申請は経費をデジタルファイルに記録して締日後にSlackで提出、クラウド会計ソフトにまとめています。領収書については実物を整理して提出する必要があります。
    3. 勤怠管理もSlackがメインとなります。リモートワークの場合業務開始時に通知し、休暇取得申請や勤怠連絡は特定のチャンネルに集約されています。Slackの連絡と社員が自分で記載する勤怠管理ファイルをつけ合わせることで勤怠管理を行っています。
  3. インフラ
    1. 入社時に社員全員に会社のノートパソコンが支給されます。業務で利用するソフトウェアやサービスのほとんどがSaaSで提供されていますので、コミュニケーション以外の業務の多くがこのノートパソコン上に集約されています。
    2. ネットワーク接続は会社所有のモバイルWi-Fiを利用することができます。外部ネットワークから作業する場合には、必要に応じてVPNに接続して作業を行うインフラが整備されています。

 
企業を存続させるための継続的なDX


こうした企業活動基盤のデジタル化を進めている企業の特徴は、非常事態とは関係なく変化を継続させているため、災害などの非常時だけではなく常にデジタル化によるメリットを得ていることです。いわば、地道に企業としての基礎体力を鍛え続けているからこそ、非常時にもBCPの発動なく対応できていると言えます。

ビジネスにおけるデータとデジタルテクノロジーの活用は、企業自身のビジネスモデルと向き合い、継続して変化を続ける取り組みです。
新型コロナウィルスの影響により業務の見直しを迫られ、当たり前の業務が当たり前でなくなった今は、継続された業務の見直しとデジタル化が真価を発揮するときでもあります。DXは企業を存続させるために、常に続ける取り組みでもあるのです。

 

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